文系フリーランスまたは休日低音大堤琴奏者の戯言

翻訳を生業とする文系フリーランスです。日々思い付く事を書いてます。

黒澤明の「天国と地獄」

表題の映画を「午前十時の映画祭」で見ました。

子供が誘拐されて解放されるまでの前半部分と、犯人が追い詰められていく後半部分に大きく分けられます。元になる作品はあるものの、後半はほぼオリジナルのようです。2時間を超える長い映画ですが、適度な緊張感があり、最後まで飽きずに見られます。

この映画では何度か、天国と地獄の対比が描かれます。誘拐されたはずの子供が見つかった時の天国、代わりに運転手の息子が誘拐された事が解った時の地獄。16歳から靴職人として働き、役員の地位を掴んだ天国、そして頂点に立とうとした時に誘拐事件の当事者となり、破産に至る地獄。そして天国と思える権藤氏の大邸宅を羨む、山崎努演じる誘拐犯の地獄。

最後で誘拐犯の竹内は自分だけが地獄に落ちるものと思い慟哭します。確かにこの時点で権藤氏は小さな靴メーカーの社長に就任する事が決まっていますが、どんな未来が待っているかは分かりません。

本来はこの後に三船敏郎演じる権藤氏と仲代達也演じる戸倉警部の会話が入る予定でした。あるいはそこでのセリフが表題を解く鍵になったかも知れません。ただし先の場面の山崎努の演技が素晴らしかったため、その場面は無くなり、天国と地獄が何を指すのかは見るものの考えに委ねられる事になりました。

最後の場面で権藤氏と竹内の間に降ろされたシャッターのようなものは、天国と地獄の間には無いのかも知れません。ちょうど竹内の家が権藤邸の眞下にあったように。

天国と地獄 [DVD]

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