文系フリーランスまたは休日低音大堤琴奏者の戯言

翻訳を生業とする文系フリーランスです。日々思い付く事を書いてます。

アメリカひじき・火垂るの墓

野坂昭如氏の有名な作品ですけど、始めて読みました。 この2作で直木賞を受賞したのですが、火垂るの墓が映画にもなって非常に有名である反面、アメリカひじきの方は少なくとも私は今回そのタイトルを始めて聞きました。

アメリカひじきというのは紅茶の事です。パラシュートで落ちてきたアメリカ兵向けの物資に入っていた紅茶をひじきだと思って煮てはみたものの、煮汁が黒くなるだけでなかなか柔らかくならず、何とか食べては見たけど美味しくもない。事情に詳しい人に聞いたらそれはブラックティーというものだと知らされた、そんなエピソードから付けられたタイトルのようです。

そんな事で植え付けられたコンプレックスを持ちつつ、妻が旅行で仲良くなったアメリカ人の観光案内を引き受け、何とか見返してやりたいと思う男。でもなかなか上手く行かない。今に至るまで日本の男はずっと同じようなコンプレックスを抱いているんじゃないかと思えます。

このアメリカひじきの中で主人公の奥さんは「もう戦争の事なんか思い出したくない」と言います。もしかしたらそういう人は当時から多かったのかも知れません。ただ、70年も過ぎてしまうと、当時の様子を描いたこういう作品の存在意義は高まっていると思います。

野坂氏をこういう創作に向かわせたのは、火垂るの墓に描かれた、妹の死に違いありません。清太のように死ななかった野坂氏はそれを使命と感じたように思えてならないのです。

火垂るの墓は何と言うか、映像化すれば成功する要素が揃ってる作品ですね。意地悪なおばさんが出て来ますが、大人も自分を守るので精一杯だったんだと思うと何だか気の毒です。

確かにこんな生活、思い出したくないという気持ちはわかります。ただ、こうやって記録に残す人がいなければ、また同じ事が繰り返されてしまうでしょう。

この作品、読んだ事ある人は少ないんじゃないかと思います。是非色んな人に読んでもらいたいものです。

あと4作品併録されています。機会があったらそれらについても書きます。

アメリカひじき・火垂るの墓 (新潮文庫)

アメリカひじき・火垂るの墓 (新潮文庫)