文系フリーランスまたは休日低音大堤琴奏者の戯言

翻訳を生業とする文系フリーランスです。日々思い付く事を書いてます。

東京の瞳

東京神田の神保町シアターで「東西対決! 輝ける〈大映〉男優の世界」という特集企画が開催されています。そこで表題の映画を見ました。

バイク会社のポスターデザイン公募に応募したデザイナーが受賞の席でコマーシャル出演を打診され、その出演をキッカケに恋人との仲がこじれていく、という話です。

そのデザイナーの弟が実はその会社に勤めていて、食堂の栄養士と恋仲。で、その栄養士は実は社長令嬢、という、なんだか話が上手く出来過ぎている感がありますが、90分前後でまとめるプログラムピクチャーでは致し方ないのかも知れません。

で、出来過ぎた話ですが、良いテンポで進行していくのでなかなか面白く鑑賞できました。

デザイナーを演じているのは山本富士子さん。第一回「ミス日本」の受賞者として有名ですが、その美貌よりもむしろ演技の巧みさが印象的でした。2人の男性の間で揺れる女心をちょっとした表情や仕草で見事に演じています。

社長令嬢は若尾文子さん。茶目っ気たっぷりの可愛らしい役どころですが、山本富士子さん演じるデザイナーを説得する場面などはやはり素晴らしいです。代表作の「青空娘」や「妻は告白する」あたりにも通じる所があるようで興味深いです。

その彼氏、そしてデザイナーの弟を演じているのは川口浩さん。何となく大映の男優さんは女優陣の引き立て役みたいな感じがしてしまうのですが、ここではからっとした好青年を好演しています。本人に合った役という事もあるのかも知れません。

デザイナーの恋人役は船越英二さんです。芸術家肌のデザイナーという、ちょっとジメッとした所のある役どころを巧みに演じています。

脇役ではやっぱり社長役の千田是也さんの演技が光ります。脇役と書きましたがストーリーに絡む重要な役です。

タイトルは山本富士子さんが歌う挿入歌からですが、正直意味があまりわかりません。

この映画は1958年のお正月映画として公開されたようです。そういう事もあってあまり期待しなかったのですが、思ったより楽しめました。プログラムピクチャー作成の一端を担ってきた、監督の田中重雄さんの確かな手腕のおかげかも知れません。

大映という映画会社は昨年が創業75周年なんですけど、実は1971年に倒産してるので、無くなってからのほうが時間が経過しているのですが、未だにこんな特集が組まれる理由も何となく分かるような気がします。この特集、4月20日までです。

神保町シアター